証券会社のジャンル別速報

これこれこういう意見もあるからよく検討してみたらどうだというコメントをつけて、総務事項であれば総務に、営業事項であれば営業の責任者およびそれに関連する人間に転送する。
こうして迅速に解決を指摘している。 目安箱に入れてほしいという趣旨だ。
社内の風通しを少しでも良くしよう、みんなの考えを少しでも多く聞こうというTの思いだ。 解決できるものはするし、できないものはみんなと相談して、必ず何か一つの方向づけの参考にはすると社員に約束した。
出だしの2カ月で50通ぐらい入った。 それは「目安箱」という電子メールボックスになっている。
入ってきた提案で、既に解決しているものもある。 営業部門で、こんなことがあった。

K電子の「儀式」の重要な一つである全体会議に関わる事柄だった。 半期ごとに、信賞必罰の実践でやっている個人表彰、グループ表彰、関連会社表彰という表彰制度にからむ問題だった。
これは、成績が上がったところに、報奨金を出し、努力をほめ称える。 部門賞、個人賞、多くの賞がある。
部門(団体)と個人とを分けてきめ細かく表彰で出す。 その中の一つに、拡販賞がある。
従来のお客様に前期よりもより多く販売したことへの表彰だ。 これは個人的なものだから、個人部門の拡販賞という名称で報奨金を出す。
他方、営業成績が良かった部門や営業所に対しては、人数×3万円とか5万円とかという単位でどんと思い切って報奨金を出す。 なぜそんなに出すかというと、全員で旅行するとか会食会を開くとかで、半年の全員の努力に報いるように使ってほしいという趣を図っていく。
「目安箱」は効果を発揮した。 目安箱は、社内の風通しを少しでも良くしようと願うTの「大きい耳」のデジタル版だ。
ところが、個人的に出した拡販賞に対して、解釈を取り違えた上司がいて、それを営業所全体の成果として、その報奨金を取り上げるとう事件が発生した。 全員で一緒に使うという上司の判断だった。
そうしたら「それはおかしいのではないでしょうか。 部門賞とは分けて、個人にも報奨金があるというので努力して、そして壇上に上がってわざわざ表彰されている。
それを個人のものじゃないといって取り上げてしまうのは、制度の趣旨とは違うのではないでしょうか」という一通のメールが目安箱に入った。 K電子は、人間尊重という理念を基本にしている。
K電子の共有の「価値観」だ。 一人一人の人間、人との縁を特に大切にする。

企業において、転職者が出るのは、やむを得ないが、やはり縁ができて少なくとも加賀電子で一緒に働くようになった以上は、会社が面白くないとか、社長が気に食わないとかで転職ということにならないようにすべきだ。 「転職者が出ないようにするには、どうするべきかということをいつも考えています」K電子は、基本的に経営者を育てている会社だ。
個人で買って、個人で売って、その個人会社の集合体のような形でずっとやってきた。 そうすることによって「経営者として、徐々に育つ」という思いがあるからそうしてだから、独立ではなく、同業に転職するとかということだったら、創業経営者として寂しいという。
原因がどこにあったのかを辞めていく時に本人にも聞いて、会社や自分が至らなかった点を謙虚に反省する。 「ああ、そうい?点もあったのかと、それはやっぱり改良しなきゃいかんな」と、彼らからも学習し、修正しながらTは事業をやってきた。
だから、「自信をつけて、自立心が目覚めて独立して辞めていくなら僕は寂しくないのだ。 K(K社長、元K電子専務)がいきなり辞表を持ってきた。
「社長、申し訳ありませんが、辞めさせてください」Tはびっくりした。 創業5、6年目の営業を必死に頑張っている時だった。

出会いを大切にしたい。 人と一緒に働いて、一緒に苦労したら、良いも悪いも一緒に味わいたい。
それでお互いに成長して、独立するかどうかは別として、共に規模が大きくなっていけばいいなと思っているんです」。 転職厳禁、独立賛成なのだが、できれば、自分とともに一生、仕事をしてくれればなおいいとは内心では願っている。
成長しての独立なら、ちょっぴり寂しいが、笑顔で喜んで送り出す。 V電機から独立した時に、社長や常務から受けた温情のある送り出し方が原点にあるのかもしれない。
Kは、Tよりも一つ年上で、もともとS電機時代からの知り合いで、Tの顧客であったタンケンとい8人云社の資材課長をやっていた。 しかも、K電子設立時の発起人の一人だった。
K電子を始める時に、知人があまりいなかったので、「会社組織にするので、発起人になっていただけませんか」とKの自宅まで頼みに行った。 奥さんや子供にも挨拶して、それでなってもらったという経緯があった。
その後、KはK電子に入社した。 彼がたまたま営業担当で、初代の京浜営業所の所長をやっていた時に、お客でMエ業というカーステレオメーカーがあった。
そこへK電子は、ICなどの電子部品を納入していた。 Kのざっくばらんな性格から、お客の社長であるIにすっかり気に入られた。
もともとIは、カーステレオを作って、海外に売り歩く商社の専務だったが、独立して、カーステレオメーカーを買収した意欲的な男だった。 当時、社内には、営業の中心として、Tだけではなく、その右腕というべき営業担当専務がいた。
Kはその専務とそりが合わなかった。 Iから誘われた時、渡りに船ではないが、この話が魅力的に見えた。
部下にとっては、上司との人間関係が一番の問題だ。 こういう精神状況の時には、必要以上に他人の芝生がよく見えるものなのだ。
同じ転職するなら、明確なステップァップの目的を持っていない限り、なかなかうまくいかないものだ。 逃避的な心情の場合には、転職してから「しまった」と思うことが、可能性として大きい。

しかし、Kは、転職を決意し、退職願をTのところへ持ってきた。 Tはまず、Kが、K電子に入ったいきさつから始まって、家族ぐるみの付き合いもしていると情に訴え、それからK電子の事業の将来性なども話した。
「転職する先が、カーステレオ事業だけでは、やっぱり限界があるよ。 破綻する可能性もある。
うちの方が、将来性があるから、そんなことを言わずに、ぜひ一緒にやろうよ」同時に、Iのところへ出向いてTはこう言った。 「本人は退職すると言ってきていますけど、私は辞めないように説得しております。
他方で、あなたが誘っておられるわけで、もしこれ以上お誘いになるのなら、うちは御社との取引をやめさせていただきます。 たくさんお買い上げいただいていますが、うちは人まで売っていません。
お客様は探せばまたあります。 しかし縁ができて一緒に働いて、一緒に苦しんできたこの人間関係というのは探してもなかなか見つかりません。
私は商売がなくなっても結構ですから、彼を引き抜くことだけはやめてください」と腹を割って、思いのたけをぶつけた。 Mエ業の社長のIもTの誠意溢れる話を聞いて「Tさん、いやよくわかった。

引き続き取引の方もお願いしますよ」と納得してくれた。 このIも、縁あって今、K電子に在籍しているという。
専務のSが入社してすぐの頃のことだ。 Sは京浜営業所に配属になっていた。
所長は、Tへの退職願を取り下げ、獅子奮迅中のKだった。

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